展覧会構成

①ケーテ・コルヴィッツ「寡婦」福岡市美術館所蔵
ケーテ・コルヴィッツ≪寡婦≫1922-23年、福岡市美術館蔵

1. 1930s 上海:ヨーロッパの木版画、中国で紹介される
1930年以降の上海で、魯迅がケーテ・コルヴィッツほかヨーロッパ各地の近代木版画を出版物で紹介し、表現主義的な木版画が新興木版画運動の素地となる。

2. 1930s中国と日本:版画運動が発展、美術の大衆化の動き
1931年8月の上海で、魯迅の発案により内山嘉吉を講師とする木版画講習会が開かれ、13人の若い中国作家が参加。彼らは日常生活の不安、社会に対する怒りを表現していく。その後、政治的弾圧や戦乱のなかでも木版画運動は中国各地に拡大。日本ではプロレタリア美術運動が印刷による美術の大衆化を求める。

3. 1940s-50s 日本:美術の民主化を、中国版画ブーム
終戦により日本の民主化への動きが高揚するなかで北関東を中心に木版画運動が展開し、職場・地域サークルでも木版画が盛んになる。日本各地で200回を超える中国木版画展が開かれる。

4. 1940s-50s ベンガル:土地を奪還せよ
ベンガル(現インド東部とバングラデシュ)で、農民運動、反帝国主義などをテーマとした版画が制作される。

⑤スハルジヤ・プジャナディ「農民のための土地」(複製展示)
スハルジヤ・プジャナディ≪農民のための土地≫(「人民日報」1964年10月25日号)より(複製展示)

5. 1950s-60s インドネシア:新聞にみる版画交流
冷戦時代にインドネシアが主導した第三世界の連帯のなかで、自国およびアジア各地の作家による木版画が新聞で紹介される。

6. 1950s-60sシンガポール:大陸から南洋の日常へ、版画と漫画の交錯
大陸への帰属意識が強かったシンガポールの中国系作家は、イギリスとマレーシアからの独立の過程のなかで、シンガポールの南洋生活に独自のアイデンティティを見出すようになる。

7. 1960s-70s ベトナム戦争の時代:国境を超えた共闘
ベトナムでは民俗芸術と融合した戦争主題の木版画が作られ、一枚の中国版画がパキスタンやアメリカまで南ベトナム支援や女性解放闘争のシンボルとして広まっていく。

8. 1970s-80s フィリピン:独裁政権との闘い
1970年代末から結成された〈カイサハン(連帯)〉などの美術家グループが、マルコス大統領の独裁政権に抵抗する労働者や農民の闘争を支援していく。

⑩タリン・パディ「泉を守れ」福岡アジア美術館所蔵
タリン・パディ(インドネシア)≪泉を守れ≫2009年、福岡アジア美術館蔵

9. 1980s-2000s韓国:高揚する民主化運動で木版画が大活躍
1980年5月の「光州民衆運動」を契機に、韓国各地に反独裁の民主化運動が拡大、「民衆美術」が成長していく。木版画は政治集会やデモ、出版や市民学校など運動の様々な局面で重要な役割を果たす。

10. 2000s-インドネシアとマレーシア:自由を求めるDIY精神
1998年のスハルト政権崩壊の前後、音楽家、美術家、学生、政治活動家らが結成した集団(コレクティヴ)が、政治の腐敗や環境破壊を告発、農村・漁村の民衆を支援する。DIY (Do It Yourself)精神から、木版画メディアが復活をとげ、その影響がアジア各地に及ぶ。